内容説明
「ナチスは良いこともした」という言説は,国内外で定期的に議論の的になり続けている.アウトバーンを建設した,失業率を低下させた,福祉政策を行った――功績とされがちな事象をとりあげ,ナチズム研究の蓄積をもとに事実性や文脈を検証.歴史修正主義が影響力を持つなか,多角的な視点で歴史を考察することの大切さを訴える.
目次
はじめに
第一章 ナチズムとは?
第二章 ヒトラーはいかにして権力を握ったのか?
第三章 ドイツ人は熱狂的にナチ体制を支持していたのか?
第四章 経済回復はナチスのおかげ?
第五章 ナチスは労働者の味方だったのか?
第六章 手厚い家族支援?
第七章 先進的な環境保護政策?
第八章 健康帝国ナチス?
おわりに
ブックガイド
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
breguet4194q
206
「いいこともした」と言う研究者に対する数多くのエビデンスを積み重ねた完膚なきまでの反駁は、見事でしかも強い説得力があります。「民族共同体」の名の基に、見かけ倒しの政策をある意味天才的なプロパガンダで国民を騙せたことは、逆の意味で凄い事です。結局、国民が賢くなって政治を監視するしかない。これは国と時代を越えて、今でも通用する法則だと思います。最後に研究者としての決意でまとめていることが素晴らしいです。820円では安い一冊と思いました。2024/07/25
trazom
185
「ナチスは良いこともした」という言説の流布に危機感を持つ学者二人が、その例とされる経済回復/労働者保護/環境保護/健康政策等を徹底的に分析し、決して「良いことはしていない」ことを論証する。本書の内容に全く異議はない。そもそも歴史修正主義的な史観を心の底から嫌忌する私だが、一方、マスコミを中心に、世の中を善と悪に二分し、いったん悪に分類すると、一切の弁明を許さないという制裁的態度の横行を悲しく思うだけに、複雑な気持ちはある。確かにナチスは絶対悪であり、一切の肯定も許すべきでないという考えは理解できたが…。2023/11/18
venturingbeyond
177
巻末にある「専門家の責任」を、twitter上で日々粘り強く果たし続けておられる田野先生と本書同様ナチズムの全体像とその本質を一般読者に適切に示す良書『第三帝国』の訳者小野寺先生による共著。巷にあふれる一知半解のナチズムを巡る俗論を、現代の現代ドイツ史研究における定説を示して丁寧に反証し、その認識の誤ったフレームアップを指摘する。テンプレート化した「ナチスは良いこともした」言説が、どれもナチズムの全体像の中に各論を適切に定置することなく、結論を導くための粗雑な切り取りであることが示される。2023/07/22
rico
133
「良いこともした」という主張に対し、オリジナリティ、ねらい、結果、という3つの視点から検証。家族、健康、環境等耳障りのいい政策も、特定人種による国家構築実現のためという目標が加われば、その構成員と認められない人々は全てを奪い排除して良し、というおぞましい施策となる。ある集団にとっては「良いこと」であっても、対象と時間軸を拡げてみれば全く違う評価となる。その視野を持つことが歴史を学ぶ意味の一つなのだろう。「良いこと」という主張の背景への言及も興味深くて。SNSの目立ってナンボ的書き込みには要注意。良書です。2024/01/27
アキ
126
ナチスについて近年インターネット上で「良いこと」もしたと主張する人が増えているという。例えば、アウトバーンの建設、歓喜力行団、フォルクスワーゲンの開発、家族政策での少子化対策、環境保護、健康政策などである。三十年間ナチスを研究してきた著者が、一見良い政策に思えるものも、その真意と実際に行われたことを知ると、他国の侵略や大量虐殺に至るならず者国家であったナチスの真の姿が見えてくることを論じている。「ドイツ人は最初は借金で生活し、次には他人の勘定でくらした」というデートレフ・ポイカートの言葉が正鵠を射る。2024/04/08