内容説明
自由は目的に抵抗する。そこにこそ人間の自由がある。にもかかわらず我々は「目的」に縛られ、大切なものを見失いつつあるのではないか――。コロナ危機以降の世界に対して覚えた違和感、その正体に哲学者が迫る。ソクラテスやアガンベン、アーレントらの議論をふまえ、消費と贅沢、自由と目的、行政権力と民主主義の相克などを考察、現代社会における哲学の役割を問う。名著『暇と退屈の倫理学』をより深化させた革新的論考。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
trazom
150
「自由は目的に抵抗する」という冒頭の文章にハッとする。コロナ下で、不要不急と名指ししたものを排除することを厭わない社会に危機感を表したアガンベン氏。目的に全てを還元しようとする社会において、全てが目的のための手段となることこそが、自由を喪失することなのだと。それは、アーレント氏が「「チェスのためにチェスをすること」の価値を見失った時、全体主義の支配が忍び寄る」と警告したことと呼応する。合目的性・目的合理性などに追われて、自由の意味を見失いつつある自分たちの現在位置を気付かせてくれる、示唆に富む一冊だった。2023/11/28
KAZOO
145
わたしには結構楽しい本であるというイメージが残りました。というのは学期末に大学での講演での話のようでかなり哲学の本などを引用しての理解しやすい話でした。一部と二部に分かれていて最後には学生の質問に答える質疑集となっています。質問もかなり程度の高いものが多くあったように思われます。この著者は「暇と退屈の倫理学」を読みましたがもう少しほかの著作を読んでみたいと臣ました。2024/05/03
けんとまん1007
93
日々の営みの中で、いろいろなことをやっている。一つ一つの行動を、改めて考えるきっかけになる。何のために・・・その先にあるのが目的。そこに辿り着くための行動・手段。でも、果たしてそれでいいのかを再考する。目的がないとだめなのか。その目的自体を、自分の置かれた環境に任せっきりにしていないか。今の時代を考えているのか・・に辿り着く。敢えて、そこを疑ってみることから始める。そして、それを表現すること。哲学は社会の虻という表現が、納得の表現。2023/09/28
tamami
83
些か唐突な話ではあるが、本書を読みながら「自由は目的を越える。」という帯の言葉を背景に終始考えていたことは、現日本国憲法の成立についてだった。現在の憲法は、大方は戦勝国であるアメリカが、占領期間中に日本に押しつけたものと思われている。わが国が謂わば半身不随の状態の時に最高法規を授けたわけである。改憲云々がいわれる当節であるが、憲法を定めるときにこそ何にも増して自由が尊重されなければならなかったのではと考えるのだが、どうだろうか。国分先生には、暇で退屈な折に、そこら辺の所も考察して欲しいと願わないでもない。2023/05/07
キク
73
「目的への抵抗」というタイトルで、コロナ禍の社会を哲学で捉え直していく。「暇と退屈の論理学」の時も感じたけど、この人の書籍のタイトルには若干の違和感を覚える。いや、内容は面白いんだけど。「自由は目的に抵抗する」冒頭の一文にドッキリする。「自由」と「目的」の定義が最後までフワフワしていたけど「自分で考えろ」ってことなんだろうな。うん、考えようじゃないか。2024/02/05