内容説明
東京に出張した僕は、新聞記事で、大学時代を過ごした高円寺のアパートの大家の雪子さんが、熱中症でひとり亡くなったことを知った。20年ぶりにアパートを訪ねようと向かう道で、僕は、当時の日々を思い出していく。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
215
第158回芥川賞受賞作・候補作、3作目(3/5)です。木村紅美、初読です。候補作品1作のみなので、帰りの電車で一気読みでした。都会の人間関係の距離感と孤独死を考えさせられる作品、テーマの割には暗さが控えめな内容です。芥川賞受賞には少し暗さが足りなかったのかも知れません。2018/02/19
雪風のねこ@(=´ω`=)
114
前半期同賞候補となった4時過ぎの船に主題が似ているかな。人は誰しも、誰かを気遣い、気遣われたいと願うものである。それを自分の都合の良い所だけを千切って他は棄ててしまうのは、まだまだ子供と言えよう。それじゃあ人に好かれる事も、小説を書く事も出来まい。何か現代における少子化の遠因ともなった様な感じがして、少々肌が粟立つ感じもする。墓参りしてやれよ、薫。小野田と一緒にね。そうでなければ、他人どころか自分すらも愛する事は出来ない。永久にね。 2017/12/24
fwhd8325
95
薫、小野田さん、そして雪子さん。切り取った景色のようだけど、心の澱のように染みついて離れない。雪子さんの無垢であることは、美しいではなく怖さを秘めている。考えれば、それを利用しているような罪悪感もある。時代が流れ、景色の変化も映し出されるが、あの頃の景色は、むしろ鮮明になって記憶を呼び起こしてしまう。切なさと同時に、時の流れ、人生は常に残酷さと背中合わせにあるのかもしれない。2018/05/22
ででんでん
85
息子を亡くした70歳くらいの雪子さんの孤独、そこから来ると思われる若い店子へのものすごい介入ぶりは、断ろうと思えばシャットアウトできるのではないか(留守中に入られるのは無理だけど)。雪子さんがそうなる気持ちもわからないことはない。(息子の存在は逆に彼女にとってストレスでもあったかも?)。それよりも私が不快に感じ、理解できなかったのは、その介入をしぶしぶ?受け入れ、当然のように差し入れのごはんのメニューを指定する薫。そして小野田。彼が主人公(語り手)なので、共感がしづらく、最後まで違和感を抱いたままだった。2018/07/02
なゆ
83
大学生の頃に住んでたアパートの大家さんだった雪子さんが亡くなったことを知り、当時のことを思い出す。他人との距離感のとり方の難しさ、だなぁ。過剰なおせっかいが重なるともうほとんどホラーの世界。なにかに搦め捕られそうなザワザワ。え?そんな作風だっけ?こんなに優しげな表紙なのに。雪子さんの言う“サロン”もわからないではないけど、出てくる3人ともが不器用で何かズレてる。薫だって、おいしいトコは甘えてた訳だしそこはズルい。小野田さんも闇がありそうで。でもきっと、この後で改善されたんだろう、と思いたい。2018/04/27