内容説明
「主よ。主よ。教えてください。俺は正しい航路を進んでいるのですか」主の命で大刀奉納の旅道中の鋤名彦名は、謎のくにゅくにゅの皮に飲み込まれ贋の世界にはまりこむ。真実を求めながらも嘘にまみれ、あらぬ濡れ衣の数々を着せられ凶状持ちとなった彦名。その壮絶な道中の果ては。(講談社文庫)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
zirou1984
44
ここはくにゅくにゅの皮に取り込まれた嘘偽りの世界。主の命を受け、大刀を大権現に奉納する旅に出た主人公は、絶えず嘘つき騙され逡巡し、宿屋めぐりの道中も文体も転げ落ちるようにローリングストーン。落伍者が持つ過剰な内面が裏返ったような思弁ダダ漏れをキメていくのは従来通りの町田節なのだが、本作では嘘偽りの世界という言い訳故に、ふと剥き出しになる生に対しての腹を括った言葉が如何ともし難く突き刺さる。「俺には俺の人生があるのだ。それはけっこう駄目な人生だが。」阿呆でもいいからまずは生きろ。くにゅくにゅくにゅくにゅ。2016/03/13
saga
41
著者の猫エッセイに魅せられて本書を購入したは良いが、普通の文庫本なら2、3冊はありそうな厚みに手を出せなかった。江戸時代とも現代ともつかぬ設定は『銀魂』のよう。不条理、ナンセンスな物語の進行に、あらすじを引いて感想を書くのも詮無い気がする。解説も本書の書きぶりを踏襲するような表現で、これが解説? と疑問を抱くと同時に、ただでさえ本編で満腹なのに、さらに追加料理が出てきた感じ。2015/07/13
さっとる◎
32
(ミクロ)ひとつびとつは事実、というか真実で、ひとりびとりにとっての本当ごと、がわちゃわちゃ集まると(何故)、(マクロ)嘘のかたまりみたいになってしまう。(遠景)ただの森、通りごして山、でしかない、それも(ズームイン)(近景)一本一本の木、で、それぞれに玉・石、宝・腐れ、変・変。間違えることが最初から決まっている人生は(テリブル)、ごちゃあと抱えてスタアト(即)終了とはいかないので、わたしたちはアホみたいな顔してバカみたいに一秒一秒、鈍。疑わしい濁った世界で今日も、みんな宿屋をめぐっている(発狂発狂)。 2023/02/15
メタボン
31
☆☆☆☆★ 世紀の奇書と言ってよかろう。町田ワールド全開。途中で物語のすじがわからなくなるも、要約されたような部分が出てきて助かった。宿屋めぐりというより、地獄めぐりと呼ぶべき遍歴。拷問・脱出・殺害などのシーンはグロテスクだが、その描写は圧倒的。語り口や文脈が面白いので、凄いボリュームにも関わらず、読了できた。2019/04/30
chanvesa
30
プロテスタント的な主(しゅ、ぬし?)を絶えず意識する人生が永劫回帰する。しかも強烈な暴力描写は、淡々としている上ユーモラスですらある。この感覚は町田さんならではだ。まるでエッセイや短編で出てくるめちゃくちゃな小説の構想を長編小説化したようだし、時代設定も場所設定もよくわからないが、不条理であったり理不尽な境遇に陥る局面があっても、真実真正で嘘をつかないことを貫くことの重要性をひねりを入れて訴える。共感したのは、鍬名彦名幼少の時にピイタアパンを観に行った際の話(390頁~)。純真な存在が恥ずかしいのだ。2016/08/13