内容説明
「浜から来た少女に恋したわたしは、一年後の再会という儚い約束を交わしました。なぜなら浜の一年は、こちらの百年にあたるのですから」──時間進行が異なる世界での哀しい恋を描いた表題作、円筒形世界を旅する少年の成長物語「時計の中のレンズ」ほか、冷徹な論理と奔放な想像力が生みだす驚愕の異世界七景。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Akihiko @ VL
52
小林泰三さん4冊目の読了。科学的な整合性を重視した頭良い人向けの小説だと感じた。私の頭が足りないせいで本来の良さの半分も味わえていない気がするが十分面白かった。表題作の『海を見る人』と『門』が印象深い。特に前者はまさかのラブストーリーで驚いた。同一空間に存在しているのに、時の流れが2人を別つ。逢いに行かないことが愛し続けることを可能にするという矛盾がなんとも儚い。2018/04/08
あおでん@やさどく管理人
44
物理の知識のある人は計算しながら読めるし、そうでなくてもファンタジーとして楽しめるSF短編集。特に印象に残ったのは最後の2作。表題作「海を見る人」は、読み終わってから鶴田謙二さんの表紙イラストを見ると切なさが増す。梶尾真治さんの「エマノン」シリーズといい、ヒロインの雰囲気を魅力的に描ける方なのだと改めて思った。「門」は、「まさか…?」と思ったことがその通りになって嬉しかった。2019/09/07
絹恵
42
物語を見ることで永遠を知ろうとすることが、終わりばかりを予見させるのなら、始まりに触れる術もまた物語に求めるのだと思います。物語という目に見えない思いを汲み取るための技術には、全てを見せようとする科学技術を孕んでいます。この科学という幸福と犠牲を伴った技術によって構築した世界のなかで、人間が振り落とされたとしても、物語だけは永遠を行くのだと思います。なんて幸福なことだろう。なんて淋しいのだろう。2014/11/29
紫伊
36
短編集としてもとても面白いのだけど、私が一番好きなのはその合間に挟まれる2人の会話。2人のイメージはワンピースの似合う少女と、落ち着きがありしゅっとしているスーツの似合う男性。それぞれの話の後2人の話す感想が私の感情に寄り添ってくるような隙間に入り込むような感覚でとても響きました。短編はどれも誰かを、何かを想うもので掴んだら消えていくような切なさと美しさがある。個人的に好きなのは「独裁者の掟」「海を見る人」。静かなのに相手への思いが溢れているようなところがとても好きです。 2019/07/30
おりん
36
再読。短編集。数学苦手でも楽しめるハードSF。どの話も良い。想像力、空想力を刺激し、その限界ギリギリへと連れて行ってくれる。今までは解説を読んでこなかったが、今回読んで一つ発見があった。SFは計算した方が楽しめるんだな、と認識させられたというか、自力で計算すれば作中に直接的に描かれないラストが見えてくるって仕掛けに唸らされました。解説を読まなければ僕は計算なんてしなかっただろうし、真のラストも知ることは無かったでしょう。SFファンのためのSFって感じで硬派ですね。2018/06/30